椿山

椿山 (文春文庫)

椿山 (文春文庫)

 「ゆすらうめ」「白い月」「花の顔」「椿山」の四編。この間の『五年の梅』よりも重かった。『五年の梅』が崖っぷちまで行ってしまった人々の物語なら、こちらは崖から落ちて、もう上へは戻れない人々の物語である。
 どの話も絶望の中でかすかに見える光を描いていて、それも救いを見いだすのは読者であって、各短編の人物が置かれている状況は厳しい。その絶望の状況が重くて、凹んでいる時に読むと少々しんどいかもしれない。
 それでもなお、どの話も最後に主人公達が行き着く場所は、わずかではあるが明るく暖かいところであり、どん底の暗闇の中であるからこそ、印象的な輝きを放つ。
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