陰日向に咲く

陰日向に咲く

陰日向に咲く

ビギナーズ・ラックにしては巧すぎる。
あと二冊は書いてもらわなきゃ。
――恩田陸(作家)
落ちこぼれたちの悲しいまでの純真を、
愛と笑いで包み込んだ珠玉の連作小説

 なにやら妙に評判が良いようだし、劇団ひとりも好きなので、新聞の広告を見た時から興味があった。本屋で見つけられず、店員に書名だけを告げたところ、それで検索してきた店員が、「劇団ひとりの本ですね」と確認してきたときの表情が笑っていたんだけど、なんちゅーの、明らかに営業スマイルではなく、薄ら笑いっぽくてちょっとムっとしたっけ。
 それはさておき、帯で恩田陸が褒めているように、確かに巧いなと思えた。それぞれは独立した短編が五編(+一編)収められているが、少しずつ人物やエピソードが重なり合っている。
 普通なら、何気なく提示されるはずの情報を意図的に隠して、それが面に出てきた時に意味を持ち、ちょっと虚をつかれた感があって面白い。が、この手法を使って良いのは一作(この連作短編を一作と勘定して)だろうから、二作目、三作目はどういう小説になるのかという期待感がもてる。
 あまりに良い評価を見聞きしていたので、「芸能人(小説の素人)の書いたものにしては良い」程度のものだろうなどと、ちょっと斜に構えて読み始め、一話目は「それほどでもない」という気がしたが、二話三話と読みつづけると、普通に小説として面白く読めた。
 胸を打つというほど感情を揺さぶられることは無かったが、どの話も弱く胸に響いてくるものがあった。その弱さの加減こそがいい感じ。
 表題の『陰日向に咲く』の「陰日向」は、明るいところ暗いところというより、暗いところにふっと差す明るい光のような意味合いだろうか。どの物語の登場人物も、どちらかというと暗い場所に生きていて、日の当たる場所に出ようとするでもなく、その場所に居続け、ほんのわずかな日差しを見いだす。その明るさも、暗さの中でだけ見いだせるような淡い明るさのような印象。
 個人的には『Over run』が良かった。オチは見えるけれど、テンポの良い語り口に引き込まれ、心当たりが沢山あって可笑しくて苦くて、最後はホロリと来た。
 芸人の書いたものという色目を無くし、本として評価される質だという気がした。だから、カバーや本体の表紙に本人の写真をあんなに使わなくてもいいんじゃないかね。まあ、いいけど。本人が書いたわけでもない下手くそな題字にちょっと違和感が。
 取りあえず、二作目が出たら読んでみたい。