トーキョープリズン/柳広司

トーキョー・プリズン

トーキョー・プリズン

 行方不明者を捜索するために来日した私立探偵の「私」は、東京裁判を待つ戦犯たちが収容されているスガモプリズンを訪れた。副所長ジョンソン中佐は、収容所内での調査を許可するかわりに、交換条件を持ちかけた。それは、戦時中の記憶をなくしたキジマという人物の脱獄を阻止し、記憶を取り戻させるというものだった。仕方なく依頼を受けた私は、戦時中、捕虜を虐待した冷酷非道な男とされるキジマと面会した。キジマは、その優れた頭脳を使い、収容所内で起きた不可能犯罪を考察する。私はキジマの思惑が掴めぬまま、キジマの言うまま捜査を始めたが……。

 読み終わった。うーん。最初は良かったが、尻すぼみだったなあ。設定や舞台、人物は面白く、かなり期待感が煽られただけに、ちょっとがっかり。
 この時代を舞台に、それも戦犯収容所で、戦時中の出来事を問われて裁判にかけられるのを待っている人物が絡む事件だから、どうしても「戦争」について語る必要があるのだろうが、それが収容所内で起きた連続殺人事件とうまく絡み合っていないようだった。
 そのため、どっち着かずの中途半端な印象。言いたいことは伝わっては来るんだけど、読んでいるうちに別の所へ持って行かれたようで、それもこの物語に期待し、想像していたものとは違っていたという感じ。
 ミステリーとしても、トリックがちょっと苦しいような。真の犯人も、いくらなんでもそんな簡単じゃないよな、と思っている人物がやっぱりそうだったのにも拍子抜け。
 キジマという謎に満ちた人物、特殊な事情により身動きが取れない人物の代わりに主人公が動かされる設定が魅力的であったので、余計に物足りなさが残った。