漆黒の王子

漆黒の王子

漆黒の王子

 理由のないいじめを受けていた少年は、ホームレスのねぐらとなっていた廃墟の貯水場で、車椅子の少年直之と出会い、親しくなる。しかし、二人はある出来事により大きな傷を負わされた。少年は、いつか自分たちを拒み、傷つけた街に復讐することを心に誓う。
 月日が流れ、異国の鳥が空を舞う町の裏側を支配していた暴力団の組員が謎の死を遂げる。地下迷路の中の暗闇にひそむ「ガネーシャ」は、彼らを眠ったまま死に至らしめていく。

 書き割りを見ているような印象。長い長い書き割りは、どこまで行っても立体感が無いままだった。
 プロローグから想像していたものとは違う展開は意外だったが、プロローグの内容が内容だけに、その意外性を楽しむことは難しく、違和感を覚える。
 まず、文章に関して、おかしな言い回しや、前後の繋がりが妙な部分があるのは最近の若手の書く小説では珍しくないのであきらめるとして、書き手の思いこみによる意味不明の(もしくは説明不足の)文章があるのが気になった。
 表の世界で起こる不可思議な殺人事件と、謎めいた異世界の物語とが交互に繰り返される構成や、殺人のアイデアや仕掛けも真新しいものではないが面白かったし、多少の無理も、小説の雰囲気に飲み込まれて巧くごまかせていると思う。その雰囲気こそ、独特のもので魅力はあった。ただ、このストーリーにマッチしていたかは疑問。
 創造力は感じられたが、想像力が足りていないようで、繊細なイメージも、無神経な描写のために魅力が削がれている。特にこういうテーマを扱うのに、想像力の不足は致命的だという気がする。それが厚みを失わせ、書き割りにような印象を与える原因であろう。
 もう一つ気になるのは、人物造形。魅力的な人物が描けていると思うのだが、登場人物全体を見ると、幅がなさ過ぎ。人をAからZに分類すると、この小説にはAとaくらいの分類しか出来ない。皆、中身は似たような印象の人物ばかり。集合体とも言えるそのAもしくはaはそれなりに魅力的ではあるが、相対する存在がないので空回りする。
 もう少し違う切り口、違うジャンル、テーマにしたほうが面白い物ができそうな気がする。
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