秘密機関/クリスティ

 大戦終了後のイギリスで、幼なじみのトミーとタペンスは久しぶりに再会した。貧乏で、退屈をもてあましていた二人は「青年冒険家商会」を設立する。とたんに仕事の依頼が入り、冒険を求めて活動を始めた二人はやがて英国政府を揺るがしかねない秘密文書消失事件へと巻き込まれていく。秘密文書は大戦中、沈没寸前の客船で一人の女性の手に渡った。トミーとタペンスは、行方しれずになっているその女性を捜すことになったが、彼の従兄弟と名乗るアメリカ青年が現れて……。

 クリスティーの第二長編。主人公二人も若々しいが、小説自体も若々しさで溢れている。スパイがらみの冒険物とはいえ、深刻さは感じられず、スリルあり恋ありの、どこか暢気な雰囲気がある。古き良き時代のハリウッド映画を思わせる。
 それを楽しく読めるかどうかが分かれ目か。展開は次から次へと休みなく動いていくが、私はちょっと物足りなさを感じた。悪い者にはそれなりの結末があり、決して人の良い主人公たちが死ぬことも傷つくこともないだろうと安心して読んでしまえるからだろうか。
 やたらと会話に感嘆符がつく二人の勢いのいい掛け合いは、時には面白いし、石橋を壊して渡るタイプのタペンスと、石橋を叩きながら渡るタイプのトミーとのコンビネーションはなかなか楽しくはある。
 こいつがくさい、いややっぱりこいつかと、読者を翻弄するクリスティーの手法も手堅く、全体はまとまっている。
 が、やはりちょっと緊張感に欠けて退屈だった。
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