橋ものがたり

橋ものがたり (新潮文庫)

橋ものがたり (新潮文庫)

 橋を舞台にした男女の別れと出会いをまとめた短編集。「約束」「小ぬか雨」「思い違い」「赤い夕日」「小さな橋で」「氷雨降る」「殺すな」「まぼろし橋」「吹く風は秋」「川霧」の十編。
 どの話も、向こうとこちらと、違う世界を結ぶ場所として橋が効果的に使われている。単純に住む場所だけでなく、人生や、運命や、生き方など、橋がその間をつなぎ、ある主人公は橋を渡って新しい人生の中に、別の主人公は戻って元の場所に落ちつく。出会いだったり、別れだったり、どの橋も印象的である。
 藤沢周平は、続けて読んでみると、北原亞以子乙川優三郎よりもシビアだ。この二人の短編集は、懸命に生きてきた者が、わかりやすいハッピーエンドではないものの、救いがある終わり方を迎えるので安心感があるが、藤沢周平の場合は、暗く、やるせないラストの話もある。人生って、厳しいよねえ、という気持ちになる。なのに、いやな気持ちにはならないのは、波紋が広がるように静かに物語が動いていくからだろうか。
 登場人物たちは誰も、力を入れて生きているわけではなく、自分の人生や運命を受け容れて淡々と生きている。どうしたい、こうしたいという強い願いや望みや衝動があるわけでもなく、ただあるように生きている。この力の抜け加減が心地好いのかもしれない。
 「思い違い」「小さな橋で」「吹く風は秋」が印象に残った。
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